84年に"DISCIPLINE"CRIMSONに終止符を打ち、「CRIMSONで考えうるものはこれ以上は無い。」とまで言い切ったROBERT FRIPPであった。この先KING CRIMSONの復活は無いのではと思われていた矢先、90年代に入ってまもなくFRIPPの周りがあわただしくなり、復活が囁かれるようになった。
91年に入って、FRIPPは正式に復活宣言をするのだが、人選に難航して最初の作品がリリースされるまで約3年の月日を費やすことになる。
ここで招集されたメンバーは、"DISCIPLINE"CRIMSONの3人、
ADRIAN BELEW,BILL BRUFORD,TONY LEVINと、TREY GUNN (WARR GUITAR, 元CRAFTY GUITARISTS のメンバーでFRIPPの愛弟子),
PAT MASTELOTTO (Ds,元Mr.MISTERでSYLVIAN & FRIPPにも参加)の6人となった。編成としてお解りかと思うが、各パートが2人ずつ存在する、ダブル・トリオである。
尚、ここではライブ盤は取り上げないこととする。
VROOOM 1994年 |
1.VROOOM |
復活一発目のアルバムタイトル曲である。METAL CRIMSONの本領発揮で、”RED”を彷彿とさせる見事なオープニング曲だ。 |
2.Sex Sleep Eat Drink Dream |
「DISCIPLINE」の頃とは声のトーンもだいぶ違っている。リズムが複雑に絡み合っているが、わりと聴き易い。 |
3.Cage |
リズム先行の曲でありながら、ラップのように歌詞もリズムの一部となったようなちょっと変わった曲である。 |
4.Thrak |
88年頃にはすでに構想されていたという、「太陽と戦慄」を思わせる重い2つのリズムがループしていく感じであろうか。 |
5.When I Say Stop, Continue |
完全にインプロビゼーションか?完全生音のアンビエント・ハウスのような(単純なリズムではない)曲である。 |
6.One Time |
CRIMSONらしい、6拍子のバラードである。美しい旋律に、静かに2人のDr、2人のBのリズムが絡む。 |
復活第1弾は6曲入りのミニアルバムである。プロトタイプ的なまだつくりとしては不完全な感じのするものである。(あくまでこの後のフルアルバムを聴いてしまった後だからであるが。)「DISCIPLINE」CRIMSONの匂いを残しつつ「LARK’S TONGUE・・・」から「RED」に至るMETAL CRIMSONを踏襲しているような全く新しいアプローチでの曲作りがなされていて、リズムもより複雑になり、ダブルトリオの効果を遺憾なく発揮している。因みにこのアルバムは僅か4日間で録音されているのだ。
THRAK 1995年 |
1.VROOOM |
[ VROOOM ]と[ Coda ]で1曲と捉えたほうがいいだろう。前作「VROOOM」では分かれてはいなかった。再構築されているので、完成度、熟成度が上がってよりバンドのアンサンブルがしっくりしている。ダブルトリオの融合の形が見える。 |
2.Coda: Marine 475 |
3.Dinosaur |
所々に懐かしいフレーズが出てくる、MELLOTRONまで出てくるのだから恐れ入る。BELEWのヴォーカルもどことなくGREG LAKE的である。 |
4.Walking On Air |
「BEAT」的なアプローチのアフリカンビートのバラードである。CRIMSONの静の部分、押さえの利いた情緒豊かな小品。 |
5.B’Boom |
次の曲に続くドラムによるオープニングパートのようだ。二人のドラムの鬩ぎ合いが楽しい。 |
6.THRAK |
「VROOOM」に比べると約3分も短い。混沌の極みのような最も初期の頃を思わせるへヴィ・メタルなナンバーである。 |
7.Inner Garden Ⅰ |
混沌から秩序へと引き戻されるようなちょっと物悲しい感じのする旋律と簡素なバッキング、プロローグのようだ。 |
8.People |
静寂を打ち砕くかのようにリズム隊で始まるアップテンポな曲。前曲とは反対にリズム中心のようだ。ベースが心地よい。 |
9.Radio Ⅰ |
イントロというかエンディングというか、サウンドエフェクト的なつなぎでしょうか? |
10.One Time |
前作よりも約1分長いバージョンである。すっきりと洗練されて荒さがなくなっている。きれいな曲だ。 |
11.Radio Ⅱ |
これも前出の「Radio Ⅰ」同様サウンドエフェクト的である。 |
12.Inner Garden Ⅱ |
7曲目からここまでで一つの括りと考えてもいいのかもしれない。7曲目と同様の曲でエピローグ的な役割の曲。 |
13.Sex Sleep Eat Drink Dream |
前作と基本的には変わっていないが、MELLOTRONが使われているのがうれしい。少し懐古的だろうか? |
14.VROOOM VROOOM |
「RED」的な展開のいかにもCRIMSONらしい1曲である。Part Ⅱであるかのように随所に懐かしいフレーズが散りばめられている。 |
15.VROOOM VROOOM: Coda |
少し間をおいて混沌へと移っていく。「THRAK」組曲の終焉である。懐古的に「RED」のフレーズで幕を閉じるのがニクイ! |
このアルバムを聴く限り、やはり前作はデモ的な側面を持って制作されたようである。全体的な印象として懐古的な感じが強い。随所に過去の作品のオマージュのようなフレーズが散りばめられているのが解る。アルバム全体の流れは極めて「太陽と戦慄」的である。
この活動を再開するまでに、過去の作品の権利を争う裁判が行われていたことを考えると、過去のCRIMSONを顧みる時間があったわけで、ベスト盤や、過去のライブのリマスターして発表されたものなどがあったことを踏まえてみても、今回のCRIMSONの方向性に影響したと考えても良いのではないだろうか。80年代のいわく付きの時を経て、CRIMSONのCRIMSONたる音楽性の再構築がここに、ある程度の結実を見たのではないだろうか。そのプロローグとして大変な秀作であろうと思う。
The ConstruKction of Light 2000年 |
1.ProzaKc Blues |
このアルバムの方向性といっていい曲かもしれない。複合的なリズムと旋律が複雑に融合しているために、より難解になっている。
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2.The ConstruKction of Light |
ギターパートとリズム隊が全く違うリズムでシンクロするというとっても不思議な曲。音は80年代Kcですが、テイストは違います。
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3.The ConstruKction of Light |
歌が入ったところでトラックが変わる。タイトルが変わらないというのも今までには無かったことだ。この演奏をしながら歌うBELEWはすごい!
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4.Into the Frying Pan |
ProjeKctシリーズの影響を随所に見せるポップナンバー。特にリズムパターンなどProjeKctが元になっているらしい。狂乱系のギターソロが心地よい。
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5.FraKctured |
当初この曲は「太陽と戦慄 PartⅤ」という題名だったようであるが、ポリリズムのパターンがFraKcturedであったことから落ち着いたらしい。
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6.The World’s My Oyster Soup kitchen Floor Wax Museum |
どうやらジャムセッションから派生した曲のようだ。混沌のフレーズと、混沌のリズムのせめぎ合いである。前衛舞踏のような動きのある曲である。
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7.Lark’s Tongues in Aspic-Part Ⅳ |
FRIPPのこだわるテーマが【太陽と戦慄】にあるような気がします。最も新しい懐古主義というか、現在のKcの根底にあるものであろうか。
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8.Lark’s Tongues in Aspic-Part Ⅳ |
組曲であるが曲の切れ目はない。このパートはFRIPPのソロパートである。独特のスケールというか指使いのソロである。
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9.Lark’s Tongues in Aspic-Part Ⅳ |
続いてBELEWのソロパートであろう。彼独特のアバンギャルドなアーミングを多用したソロでFRIPPとは対照的である。
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10.Coda: I Have a Dream |
前3曲のエピローグであろう。この曲まで1曲に聴こえる構成となっている。約13分の大作である。 |
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ProjeKct X |
11.Heaven And Earth |
KING CRIMSONでありながら異なるコンセプトで成立しているProjeKctによる楽曲が、アルバムに加えられているのは興味深い。明らかに色の違う曲である。
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このアルバムには、
BILL BRUFORD(方向性の違いから不参加との噂)と、
TONY LEVIN(ご存知のように多忙なセッションマンである。)が参加していない。
前作「THRAK」から今作の発表まで約5年のスパンがあいている。それは紛れも無く多忙で、自己の活動をも平行して行っている各メンバーのスケジュールによるものであろう。そのために、Kcとしての活動が不完全であることから、その時々で集まることの出来るメンバーで構成した「ProjeKct」と冠された活動を展開する。4つの「ProjeKct」で活動を行っているがこれらは基本的に即興性を重視したものであるらしい。(「ProjeKct」についてはまた別の項でやることにします。)
このアルバムのメンバーは、ProjeKct 2のメンバーで構成されている。つまり、ROBERT FRIPP, ADRIAN BELEW, TREY GUNN, PAT MASTELOTTOの4人で構成されている。現時点でFRIPPが最も重要視しているユニットであるという証であろう。V-ドラムをフィーチャーして試行錯誤を重ねつつ、ポリリズムとのグルーブの追求を重ねているようであり、さらにWARRギターとV-ドラムの相性というか融合性をも実験しているのかもしれない。
因みにV-ドラムというのは、シンバル類をもドラムパッドを用いて音を出そうとするシステムで、サスティンの極端に少ないほとんどデッドな音を作り出しているものだそうで、ハイハットですらこのパッドにあわせてハーフオープンでセッティングされているようである。
さらに進化を続けているということなのであろうが、新しい機材の導入には貪欲な様である。正体がわかるまでは一体何が鳴っているのか解らないのでこちらも追求する楽しみがありますが・・・・。
SHOGANAI- HAPPY WITH WHAT YOU HAVE TO BE HAPPY WITH 2002年 |
1.BUDE |
インタールード的なBELEWのヴォーカルにエフェクトをかけたもので、次の曲のプロローグ的な役割もしていると思われる30秒ほどの曲。とても面白い効果を醸し出している様だ。
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2.HAPPY WITH WHAT YOU HAVE TO BE HAPPY WITH |
このアルバムのサブタイトル曲にして、メインの曲といって間違いないだろう。オルタナとメタルの融合である。この先の道標的な曲かもしれない。最後に「BUDE」で完結、エピローグであろう。
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3.MIE GAKURE |
ROBERT FRIPPによるサウンドスケイプ・サウンドによる、この曲もインタールード的である。核となる曲どおしをつなぐ役割を果たしているように思われる。
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4.SHE SHUDDERS |
この曲も「BUDE」同様にインタールードであろう。このアルバムは曲間ごとにこういったクッション的な曲を入れて独特な音空間を作り出しているようだ。面白い試みである。
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5.EYES WIDE OPEN |
南国の黄昏時を感じさせるスローバラードである。アコギの柔らかな音が、しっとりと叙情的なBELEWのヴォーカルに絡んで美しいアンサンブルを見せている。CRIMSONのバラードは美しい。
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6.SHOGANAI |
バリのガムランのような不思議な感じのする曲である。打楽器のみの構成でこのままバリに持って行ってもおかしくないような感じである。
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7.I RAN |
これもインタールード。3曲ともその歌詞の内容が暗示的で抽象的な感じのするもので次の曲に関係しているのか、今のKcの象徴なのか不思議な内容である。
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8.POTATO PIE |
なんと、ブルースである。ここまでバリバリのブルースをKcで聴けるとは思わなかった。とはいえそこはKcである。リズムがなんとも面白い。しかし、アメリカ人が3人なので当然といえば当然か・・・
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9.LARK’S TONGUES IN ASPIC(PART Ⅳ)
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またしても「太陽と戦慄」である。この曲はどうやらKcの存在意義のようなものらしい。METAL CRIMSONの基底に鎮座する曲なのである。Kcが凝縮されているといえば言えなくもないのかもしれない。
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10.CLOUDS |
そして、インタールードで幕を閉じる。ここまででアルバムごと一つの流れの中で連作のような存在感を作り上げている。面白い試みである。
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| Secret track |
EINSTEIN’s RELATIVES |
シークレット・トラックというよりはリハーサル・テープを断片的に編集して繋げたような感じの「音源」であり、曲ではない。次のフルアルバムへの布石だろうか。「続く・・」というテロップが入りそうな雰囲気である。
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曲数が多く、フルアルバム並みであるが35分程度のれっきとしたミニアルバムである。2・5・8・9曲目がメインの4曲入りなのであるが、インタールードなどそれぞれにタイトルがついているためにこの曲数なのである。
タイトルの
「しょうがない SHOGANAI」は、サブタイトルの「HAPPY WITH WHAT YOU HAVE TO BE HAPPY WITH(今の幸せを幸せと思わなければならない)」を日本語に訳すと何がいいかということで、「しょうがない」が適当だろうということらしいが、なんとも皮肉っぽい訳し方ではないだろうか。シンプルにするという意味で一言で訳すということと、言葉の響きが気に入ったらしい。
このアルバムに収められている曲は、レコーディングに先立って行われたいくつかのギグで披露された新曲の中から選ばれたもので、この後に出るフルアルバムのイントロダクションとしての役割であることは明白である。「VROOOM」=「THRAK」のときもそうであったが、試作段階に完成されたものをミニアルバムとして発表するというのは、CRIMSONならではの戦略というか最近の手法なのではないだろうか。
THE POWER TO BELIEVE 2003年 |
01.THE POWER TO BELIEVE Ⅰ:A CAPPELLA |
前作の「BUDE」を思わせるようなインタールード的な曲である。アルバム全体のオープニングであると同時に、組曲のイントロでもあるのだ。イコライザー処理されたBELEWの声が独特の効果を与えている。
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02.LEVEL FIVE |
静寂を打ち砕くかのような、このアルバムのコンセプト「NUOVO METAL」的な曲である。リズムパターンからして「太陽と戦慄」を思わせる、さながらPART Ⅴの様相を呈している激しい曲である。
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03.EYES WIDE OPEN |
前作ではアコースティックな感じでボサ・ノヴァフレーバーな感じであったが、ここではKc独特なリズムパターンでより流麗なそしてドラマティックな展開を見せる美しい曲である。
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04.ELEKTRIK |
オープニングの音はメロトロンのフルートの音らしい。それをギターサウンドにサンプリングしたものから始まるKcらしいポリリズム・パターンからメタルサウンドまでかなり練りこまれた秀逸な展開の曲。
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05.FACTS OF LIFE: INTRO |
ROBERT FRIPPお得意のサウンドスケイプが印象的な小品。INTROと言うとおり、次に続く本編に期待を持たせる作りとなっている。ライブでも良く使われる手法だ。MASTELOTTOのV-ドラムでブレイク。
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06.FACTS OF LIFE |
リフやギターソロ部分がHM/HR的な、「NUOVO METAL」とはこういうものだ、と言わんばかりのへヴィな曲だ。このアルバムではBELEW自信によるハモリが多用されている。ギターソロはいかにもFRIPPらしい。
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07.THE POWER TO BELIEVE Ⅱ |
「SHOGANAI」と、先に発売されたライブアルバム、「LEVEL FIVE」の中のインプロビゼーション「VIRTUOUS CIRCLE」の2曲を再構築したものである。Kcの静の部分の抑制の利いた曲である。
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08.DANGEROUS CURVES |
一定のリズムパターンとリフで構成されている曲。少しずつフィルインしてくる変わった雰囲気である。MASTELOTTOの自由奔放なドラミングがメインとなっているように思う。崩壊で幕を閉じる。
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09.HAPPY WITH WHAT YOU HAVE TO BE HAPPY WITH |
「SHOGANAI」よりも約1分短いヴァージョンとなっている。FRIPPが言うところの「NUOVO METAL」らしい感じが前作よりもより強くなっているように感じられる。激しい曲である。
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10.THE POWER TO BELIEVE Ⅲ |
インプロヴィゼーション色の強いナンバーである。JAMIE MUIRがいたころの「太陽と戦慄」のような、混沌の中にも狂気を感じさせるような緊張感漂う中で個々人の技量のぶつかり合いが展開されている。
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11.THE POWER TO BELIEVE Ⅳ: CODA |
この曲だけ少し音圧が違うのは、ライブ・パフォーマンスのサウンドスケイプの音源に、BELEWのヴォーカルを乗せているかららしい。どちらにせよ、このアルバムの終章としてふさわしい。
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「信じる力」全く人を食ったアルバムタイトルである。ミニアルバムとして出された前作が「しょうがない」である。それとは全く逆な意味合いのタイトルをつけることによってこの2枚のアルバムが対を成して、Kcの新しいサウンドコンセプトである「nuovo metal」を具現化させたといえよう。
前作に引き続き、エンジニアにオルタナ系やインダストリアル系が得意なMACHINEの起用が興味をそそる。そしてその影響がそこかしこに見られて、特に「THE POWER TO BELIEVE」の4曲の雰囲気はそうだといえるかもしれない。(Ⅳだけは絡んでいないようである)